AKIRA@日記

ソーシャルワークが出来る人間を目指す大学生。

スロウハイツの神様のエンヤは幸せになったのか。

 

 僕が大好きな小説家・辻村深月さんの著作に「スロウハイツの神様」という作品がある。僕はこの作品が大好きだ。その理由は、この作品に出てくるエンヤというキャラクターが置かれる境遇にすごく共感したから。彼の心の苦しみがすごくわかり、彼の気持ちが痛いほど分かったのだ。

 

この作品の設定としては、それぞれ自分の夢を持っている若者たちが、トキワ荘の様に1つの家に皆で生活を共にしている。そこに住む者は色々な人がいて、絵本作家を目指している者、画家を目指している者、はては作家としてもう成功している者もいる。

細かくストーリーを書くと、かなり話が逸れてしまうので、ざっくり説明すると、もう作家としてかなり成功している赤羽環(あかばねたまき)という女性がいる。そして、同じく作家を志望しているがそこまで売れていない円屋という男性がいる。このエンヤは、赤羽環とは小学校からの友人である。

 

でも結論から言うと、このエンヤは赤羽環と決別し、スロウハイツという建物から出ていく事になった。僕はエンヤがこの様な過程に至るまでの苦痛が痛いほど分かってしまった。

 

エンヤは環を超えたかったんだ

 はっきり言えば、エンヤは環を超えたかったんだと思う。でも、同じ作家として、環と自分の間に“超えられない壁”があるのを認めたくはない。その差を認めて、環の側にいるのは苦痛でしかない。だから、エンヤは環の側から離れる事を決意したのだと思う。

 

他の仲間が、環と仲良く談笑している姿を見て、エンヤは「お前ら環を超えたいと思わないのか」と言葉を発する場面がある。僕は、このエンヤの言葉が痛いほど分かってしまった。

 

この人を超えたい。この人と肩を並べられるような存在になりたい。誰だってこんな感情を持つ事はあるだろう。別に悪い気持ちではないと思う。僕だって、このような感情を持つ事はある。いや、めちゃくちゃ持っている(笑)でも、この感情を持って、自分は幸せになれるのかと不安になる事がある。

 

人の心情を洗い出すかの様に描写するのが、辻村深月さんの真骨頂

 辻村深月さんの作品と言えば、ジャンルで言えばミステリーに当たるだろう。

辻村さんの作品は、猟奇的や怪奇的なシーンが多く描かれる。でも、辻村さんの真骨頂は、人の心情の細かい機微を洗い出すかの様に描写するところだと思う。読んでいて、これだけ作品内のキャラクターの気持ちとシンクロ出来る作品は他にはない。

 

 辻村さんは本を読むことの1番の楽しみは、「他人になれること」と仰っている。実際に僕は作品内でエンヤになりきってみたけれど、幸せになれた気がしない。

エンヤは、幸せになったのだろうか。僕はいつか辻村深月さんにそこを聞いてみたい。

 

スロウハイツの神様(上) (講談社文庫)

スロウハイツの神様(上) (講談社文庫)

 
スロウハイツの神様(下) (講談社文庫)

スロウハイツの神様(下) (講談社文庫)